【京都府JICA帰国専門家連絡会会報(第3号) 2011年3月京都府JICA帰国専門家連絡会情報】より
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中国ワクチン予防可能感染症プロジェクトに従事して

    
医学博士 唐牛良明
(公益社団法人 京都保健衛生協会 理事)



 私の専門家経歴は次表の通りです。
 今回は、中国で従事してきた「ワクチン予防可能感染症プロジェクト」での経験と感想を紹介させていただきます。

派遣国 形態 専門項目 期間(年月)
インドネシア チーム マラリア媒介蚊対策 自 1981.2 至 1982.1
中国 チーム ポリオ実験室指導 自 2004.4 至 2005.5
中国 チーム ポリオ、麻疹等実験室指導 自 2007.2 至 2009.1


1. ワクチン・プロジェクトでの私の活動
 現在、依然として多くのウイルス感染症が世界の人々を脅かしています。しかし、中にはワクチンにより感染を阻止し、究極的にウイルスを根絶できる感染症もあります。
 最初に成功したのは天然痘でした。WHOが主導し世界的規模でワクチン対策を講じた結果、1980年までに天然痘ウイルスを地球上から根絶することができました。次はポリオ(小児麻痺)を根絶するための努力が、今度もWHOが中心になって世界的に展開されています。日本を含むWHO西太平洋地区は、域内での野生ポリオウイルス根絶確認を、2000年に京都で開催された国際会議で宣言しました。
 しかしながら、インド亜大陸と中央アフリカには依然として野生ポリオウイルスが存在し、毎年ポリオ患者が発生しているのが現状です。インド亜大陸と地続きで人口稠密な中国は、日本同様すでに野生ポリオウイルスを根絶してはいますが、その再侵入を最も警戒しなければならない国と言えます。このような背景のもと、JICAは1990年代初頭から中国政府と共同で中国ワクチン・プロジェクトを開始し、中国のワクチン政策支援を継続してきました。この事業の根幹は、ポリオワクチン接種の徹底とポリオ患者のサーベインランス(監視)でした。サーベインランスによるポリオ患者の発見は重要なポイントですが、患者確定には患者からのウイルス検出と正確なウイルス同定が決め手となります。このため中国国内の全31省にポリオ実験室が設置され、ウイルス検査の役割を担っています。
 私はこれら実験室が十分に機能するのを指導・支援する目的で、2004年に北京の中国衛生部・中国疾病予防コントロール・センター(CCDC)にあるJICAプロジェクトに赴任しました。実験室指導は、@直接各省へ出向き、実験室スタッフに研修を実施、A北京のCCDCに各省スタッフを集め、一定期間研修を実施、B全国実験室ネットワーク会議等で講義や研修による指導を実施、の主として3種類で行いました。

ポリオ実験室で、顕微鏡を見ながらのトレーニング

 このプロジェクトは2005年に終了しましたが、2006年からは対象感染症を拡大した後継プロジェクトが開始しました。このプロジェクトでも、私はポリオ、麻疹、および日本脳炎を対象として、再度実験室指導にあたりました。
 前ページの写真は省実験室での研修の一こまです。現場での手抜を含め、きめ細かいトレーニングを心がけました。中国各地の実験室スタッフは若い方が多く、教えられたことを吸収しようとする意欲は高く、この国全体が急速に向上しつつあるという実感は、この研修態度にも感じ取ることができました。

2. 広い中国にたくさんの友人が
 初めて踏む中国大陸、周りは見知らぬ人ばかりで、いささか不安でもありました。ところが、最初に訪れた西安市の空港で、降り立った私めがけて駆け寄る人がいました。「先生、京都ではお世話になりました。私を覚えてますか!」。そう叫ぶ女性には、確かに見覚えがありました。数年前、京都の私の研究所に中国の研修生十数名が訪れ、私も研修を含めてお世話をする機会がありました。その折、冒頭に私が、「私の姓からして、どうやら私の先祖は唐の国から牛を連れて日本に渡ってきたのではないでしょうか」と自己紹介すると、彼らはどっと笑顔になり、大喜びされました。これが記憶に残ったのでしょうか、それ以後もあちこちの省で同様に出迎えてくださったスタッフがいました。
 おかげで、彼らをはじめ実験室の方々とはすっかり仲良しになれました。私の中国語は結局ものにならず、英語主体の指導にはなりましたが、教える私と教わるスタッフ双方のコミュニケーションは結構かみ合い、結果としてほぼ満足できる指導ができたように感じました。仕事をするうえで大事なことは、まず相手の国の方々と仲良くなることだと実感しました。
 全国を回ると言っても、施設・設備をはじめ実験室整備のやや不十分な内陸部が主になりました。それにしても、中国は広い。1省を約1週間の日程で訪問しますが、多いときは月3回出張ということもありました。毎回飛行機での移動になりますが、機窓から見える果てしない大地や山脈に、つくづくこの国の広さを感じました。南部の雲南省での研修後いったん北京へ戻り、翌々日には西端のチベットへ飛ぶといったハードスケジュールもありました。高齢者になりつつあった私にこれができたのは、大勢の方々を相手に活動することで、いい意味での精神的緊張を持続できたからだと思います。

3. 京都に戻って
 JICA専門家活動を完全に終了し京都へ戻ったのは2009年3月でした。以来再び京都での仕事に就いていますが、JICAとのつながりはまだありました。
 JICAプロジェクトでは毎年相手国スタッフを日本に招聘し、日本での研修を行う制度があります。この制度で研修を受ける方々は、その一環として京都を訪問することもあります。かつての私のラボへの訪問も、そのケースでした。私の帰国後も、一緒に仕事をした実験室スタッフの京都訪問があり、おかげで私は彼らと旧交を温め、京都をPRすることもできました。
 日本と中国の間には少なからず懸案が存在するのも現実ですが、この二国が手を取り合って進まなければ世界の健全な発展がおぼつかないことは明白です。そのためには広い分野での相互理解と協働が不可欠です。
 JICAの目指す国際協調関係を発展させるためには、地味ではあっても、両国の底辺を支える分野の協働が今後も継続されるべきだと確信しています。

 

 


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